和食のお店に18人の男女が集まっています。平均年齢は60歳くらいでしょうか? その中にキヨタもいます。キヨタはこの仲間とのお付き合いは凡そ30年にも及びます。午後4時から始まったこの集い、歓談の途中では一人ひとりが近況報告や来年に向けての抱負を述べ、恒例のプレゼント交換も終わりました。そして楽しい時間もあっという間に過ぎて、銀座のネオンの煌めきが増す時間になりました。すると、この中で最高齢と思われる男性が上着のポケットから紙を取り出しました。そろそろ、お開きの時間で締めの挨拶が始まるのでしょうか。ところが他の参加者は皆、首を傾げて何やら思案を巡らせ始めましたよ。酔いが回ったのでしょうか。ちょっと様子を覗ってみましょう。と、やおら一人の男性が手を挙げ、一句を発表しました。『熱燗や 銀座の柳 揺れている』。最高齢と思われる男性は、それを書きとった後、評を述べました。「銀座の柳は言いつくされているから別の表現を求む」。ただ、これを切っ掛けに他の参加者も続いて即席の俳句を発表し始めました。どうやら宴たけなわを過ぎてから師走の有楽町でミニ句会が始まったようです。

 と言っても、集まっているのは俳句仲間ではありません。ここにいるのは東京港区にあるスポーツセンターで走ってい者同士が、声をかけあって自然発生したランニングクラブの仲間です。このスポーツセンターには1周180mのランニングコースが設けられており、夜間は区内に勤め先のある人たちが仕事帰りに多く利用しています。狭いコースの中で走っていますので、自然と顔見知りが増えていきます。その中で、走っている時に、いかにも酒が好きそうな人を巧みに見分けて声をかけあい出来たクラブです。時には「走らなければ、ただの酔っ払い。」と自虐的揶揄を交わしながらも、昭和のバブ前夜から終盤、そして平成の不況の中を仕事も趣味も全力で駆け抜けた人たちばかりです。今更、過去のそれぞれの戦績や記録を出してもオヤジの戯言になりそうで、最近は専ら飲兵衛の集いになりつつはあります。それでも今もウルトラマラソンに挑戦し続けたり、体力づくりに励んでいるメンバーも多くいます。勿論、子育て、孫遊び真っ只中の人たちも。

 その中の最高齢は78歳男性。中学の頃から文芸部に入り俳句に親しんでこられました。地元では俳句教室を開いています。この方が参加すると、必ず飲兵衛の会が句会になります。勿論、本格的に俳句に取り組んでおられる方々に比べれば稚戯に過ぎませんが、このような機会もまた楽しいものです。

 その中で、選者によるこの日の最優秀作品は、
『雨音と 聞き違(たが)える程の 落ち葉かな』 でした。
 先生の評はこの時期意外と大きく聞こえるときがある。木々の様子が日々変わって行く。寒さが伝わる。

他にもいくつもの句が発表されました。後日、書きとられた句と評を書かれた句集が送られてきました。ただ残念なことに、先生も酔いが回り、一部書きとれなかったり、後になって読み取れなかったりということで全てが残されたわけではありませんでした。その中で残された句と評は次の通りです。(『?』は先生が書き取れなかった、または先生自身で自分の字が読めなかった字です)。

『熱燗や 銀座で飲むも またお洒落』 
 この句のとおり。最近流行の和食と燗酒。健康に飲めることに感謝。

『熱燗で ほっと一息 帰り道』
 一日の勤めが終わり家での晩酌が間に合わずちょっとだけ。さぁ急いで帰りましょう。

『熱燗で ????なるよ 先生は』 
 この場では自分か。盗み酒が出来ない体質なのですぐ赤くなる。

『熱燗で ??????? 月見酒』 
 なるべく季語をひとつにしましょう。

『熱燗で ??????? 今でしょう』
 呑むとき、所はこだわらず。相手さえ居ればさぁ行きましょう。

『○○家 家に帰って 熱燗で』 
 ○○さんに限らず家での酒も良いものです。

熱燗で ??家族の 和を繋ぐ』 
 二人の和を繋ぐ方便はいくつも有るが、矢張り酒が一番か。

『忘年会 今年の苦労 ネギらおう』 
 下五葱と労う(ねぎらう)をかけている。言葉遊び。

『熱燗の 向こうの顔の揺れてをり』
 酔っているのか、料理の湯気にか、こっちも揺れている。

さて、冒頭の集合写真。特に第1列目の人たちの佇まいに、このメンバーの人柄が溢れていますね。


次回の句会は来年2月、観梅ラン&温泉と
8月には、とびしま海道の終点になる瀬戸の小島になりそうです。

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